不動産トレンド

2017年6月9日に「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が成立しました。「住宅宿泊事業法」制定の目的としましては、訪日外国人旅行者が急増する中で、多様化する宿泊ニーズに対応し、現在普及が進む民泊サービスについて、その健全な普及を図るために、事業を実施する場合の一定のルールを定めることにあります。ここ数年、エアビーアンドビー(Airbnb)を始めとしたインターネットプラットフォームを活用した民泊サービスが世界各国で展開されており、我が国でも急速に普及しています。一方で、民泊サービスに起因した近隣トラブルも少なからず発生しており社会問題となっていたことが背景にあります。このため、民泊サービスの提供に関して一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図ることが急務となっていました。


民泊新法(住宅宿泊事業法)制定の背景としては、この数年間、民泊サービスが世界各国で展開され、我が国でも急速に普及していることがあります。また、急増する訪日外国人観光客のニーズや大都市部での宿泊需給の逼迫状況等に対応するため、民泊サービスの活用を図ることが重要となっています。そこで、民泊サービスの活用に当たって、公衆衛生の確保や地域住民等とのトラブル防止に留意したルールづくりや、無許可で旅館業を営む違法民泊への対応が急務となっていたわけです。
この民泊新法については、観光庁と厚生労働省による検討会において議論が進められ、昨年2016年の6月に規制改革実施計画が閣議決定されていました。
住宅やマンションの空き部屋を旅行者らに有償で貸し出す「民泊」のルールを定めた今回の法案の閣議決定以降は、今年3月10日に衆・参議院で議案受理され、6月1日に衆議院本会議で可決、6月9日に参議院本会議で可決・成立し、下位法令やガイドラインの準備・周知期間を経て、早ければ2018年1月に施行されるスケジュールとなっています。

新法のポイントは、民泊物件の所有者らに届け出などを義務付け、違反者への罰則を設けた上で、営業を全国で解禁すること。また、年間営業日数の上限は180泊とし、生活環境の悪化が懸念される地域では都道府県や政令市などが条例により短縮できるようにすることです。民泊は現在、東京都大田区や大阪府など国家戦略特区で認められているほか、旅館業法に基づきカプセルホテルなどと同じ「簡易宿所」としての営業許可を受ければ実施可能となっていました。しかし、無許可営業が横行しており、周辺住民とのトラブルが問題となっています。そこで、新法は、特区以外の地域や、簡易宿所を原則設置できない住宅地での民泊を解禁するわけですが、物件の所有者に(1)都道府県への届け出、(2)衛生管理、(3)苦情対応などを義務付けることとしました。また、物件管理を所有者から委託さ
れた業者やエアビーアンドビー(Airbnb)のような仲介業者には国への登録を課すことになりました。さらに、違反者に対する立入検査の実施や罰則(物件の所有者が虚偽の届け出をしたり、営業停止命令などに従わなかったりした場合、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金)も定められています。

以上のように、民泊新法のポイントとしては、(1)年間の営業日数上限180日、(2)自治体が独自条例で営業日数を制限することが可能、(3)住宅の家主に自治体への届け出を義務化、(4)仲介業者に観光庁への登録を義務化、(5)住宅の家主に標識掲示や名簿作成を義務化、(6)法令違反した場合は業務停止命令や事業廃止命令が行われ、従わない場合6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰則。以上についてまず把握していただきたいと思います。

また、ホストに対する規制は、民泊の形態を「家主居住型(ホームステイ型)」と「家主不在型(ホスト不在型)」に区別した上で、住宅提供者、管理者、仲介事業者に対する適切な規制を課し、適正な管理や安全面・衛生面を確保しつつ、行政が、住宅を提供して実施
する民泊を把握できる仕組みを構築するとしています。
イ.ホームステイ型
「家主居住型(ホームステイ型)」の民泊とは、住宅提供者が、住宅内に居住しながら(原則として住民票があること)、当該住宅の一部を利用者に利用させるものをいいます。この「家主住居型」では、住宅内に居住する住宅提供者による管理が可能です。そこで、住宅提供者は、住宅を提供して民泊を実施するに当たり都道府県知事又は保健所設置市等への届出を行うこととします。
ロ.ホスト不在型
一方で、 「家主不在型(ホスト不在型)」民泊については、家主居住型に比べ、騒音、ゴミ出し等による近隣トラブルや施設悪用等の危険性が高まり、また、近隣住民からの苦情の申入れ先も不明確になります。そこで、「家主不在型」民泊については、届出を行うだけでなく、住宅提供者が「住宅宿泊管理業者」に管理を委託することを必須とし、適正な管理や安全面・衛生面を確保するとしています。
なお、住宅宿泊管理事業者への委託が必須となる住宅宿泊事業は届出住宅に人を宿泊させる間にホストが不在となるものなので、出張やバカンスによる住宅提供者の不在期間中の住宅の貸出しも家主不在型と位置付けられます。ただし、住宅宿泊事業者が自己の生活の本拠として使用する住宅と届出住宅との距離その他の事情を勘案し、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなくてもその適切な実施に支障を生ずるおそれがない場合と
して政令で定められたケースでは住宅宿泊管理業者への委託は不要となります。この例外規定の具体的内容に注目する必要があります。
なお、自治体の独自規制の動きが各地で始まっていますので、その地域の宅建業者の皆様は確認が必要です。例えば、長野県軽井沢町では町内全域で民泊施設を認めない方針ですが、どこまで法的拘束力があるか不明です。東京都新宿区、世田谷区では有識者でつくる検討会議を設置し、独自ルールを模索中です。札幌市、京都市は、市民からの相談を受け付ける通報窓口を設けることを表明しています。こうした地域による独自の動きも今後注意が必要になってくるかと思います。

それでは、民泊新法の概要を改めて整理します。
まず、「住宅宿泊事業者」についてです。法律では、民泊サービスは,旅館業の許可を受けて旅館業を営む者以外の者が、宿泊料を受け取って、住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないものと位置づけられています(2条3項。住宅宿泊事業)。住宅宿泊事業を営む場合には、都道府県知事(住宅宿泊事業の事務処理を希望する保健所設置市又は特別区においてはその長)へ届出をすることが求められています(3条)。この届出をして住宅宿泊事業を営む者を住宅宿泊事業者といいます(2条4項)。住宅宿泊事業者には、宿泊者の衛生を確保するための必要な措置(5条)、宿泊
者の安全の確保を図るために必要な措置(6条)、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置(7条)を講じること等の義務が課されますが、その具体的な内容は省令で定めるものとされています。
さらに、外国人観光旅客である宿泊者に対し、届出住宅の設備の使用方法に関する外国語を用いた案内、移動のための交通手段に関する外国語を用いた情報提供その他の外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置であって政令で定めるものを講じなければなりません。宿泊者名簿の備え付けも必須です。今後の政省令の内容の確認が重要になってきます。
また、実施期間の制限については、都道府県等は,住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があると認めるときは、条例で、区域を定めて、宿泊事業を実施する期間を制限することができます(18条)。このように、地方自治体が条例を制定することにより、地域の実情に応じた対応が可能となっています。
なお、旅館業法の許可を受けず、都道府県知事等への届出なく住宅宿泊事業を営んだ場合は、旅館業法違反となるため、6か月以下の懲役又は3万円以下の罰金に処せられる可能性があります(旅館業法10条1号)。

なお、ここでいう「住宅」の定義については確認が必要です。民泊新法の「住宅」とは、以下の2つの要件を満たすものをいいます。
A. 当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして政令で定める設備が設けられていること。
B. 現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋であって、人の住居の用に供されていると認められるものとして政令で定めるものに該当すること。
政令の内容について今後確認が必要となります。

次に、「住宅宿泊管理業者」についてです。
住宅宿泊事業者は、届出住宅の居室の数が一定の数を超えるとき、届出住宅に人を宿泊させる間不在となるときには、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなければならないとされています(11条)。この委託を受けて、報酬を得て住宅宿泊管理業務を行う事業を住宅宿泊管理業といいます(2条6項)。住宅宿泊管理業を営むためには、国土交通大臣の登録が必要とされており(22条1項)、この登録を受けて住宅宿泊管理業を営む者を住宅宿泊管理業者といいます(2条7項)。
住宅宿泊管理業者の義務としては、管理受託契約を締結しようとする場合、委託者に対して、事前に、契約内容等について書面を交付して説明しなければならないとされています(33条)。また、管理受託契約を締結したときは、委託者に対して、遅滞なく、一定の事項を記載した書面を交付しなければならないとされています(34条)。今回は、個人が住宅宿泊業を営むケースが多く想定されることから、住宅宿泊業者を保護するため、住宅
宿泊管理事業者に一定の説明義務を課したものと考えられます。
なお、国土交通大臣の登録を受けずに住宅宿泊管理業を営んだ場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられます(72条1項)。
ホスト不在型民泊における「住宅宿泊管理業者」には、宿泊者の衛生の確保、宿泊者の安全の確保、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保、宿泊者名簿の備付け、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明、苦情の処理、届出住宅の維持保全に関する業務が求められるかと思います。現在は、民泊代行業者が何ら登録を行うこと無く民泊代行(民泊管理業)を実施していますが、民泊新法が施行された後は
国土交通大臣の登録を受けなければ住宅宿泊管理業を実施できませんので要注意です。また、住宅宿泊管理業者は、管理委託契約を締結する前に委託者に対して、管理受託契約の内容及びその履行に関する事項であって政令に定めるものについて、書面を交付して説明しなければなりませんが、書面交付は電磁的方法による提供でも可能です。
なお、管理受託契約締結時の書面交付の際には、住宅宿泊管理業務の対象となる届出住宅、住宅宿泊管理業務の実施方法、契約期間に関する事項、報酬に関する事項、契約の更新又は解除に関する定めがあるときはその内容、その他政令で定める事項を記載しなければなりません。さらに、住宅宿泊管理業者は、住宅宿泊事業者から委託された住宅宿泊管理業務の全部を他の者に対し再委託してはなりません。現在の民泊代行業者の中には受託した民泊運営業務を下請け業者に丸投げしている業者も多いようですが、今後注意が必要です。

次に、「住宅宿泊仲介業者」についてです。
住宅宿泊事業者は、宿泊サービス提供契約の締結の代理又は媒介を他人に委託するときは、住宅宿泊仲介業者又は旅行業者に委託しなければならないとされています(12条)。
旅行業の登録を受けた旅行業者以外の者が、報酬を得て、宿泊者や住宅宿泊事業者のために、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする事業を住宅宿泊仲介業といいます(2条9項)が、住宅宿泊仲介業を営むには観光庁長官の登録を受ける必要があり(46条1項)、この登録を受けて住宅宿泊仲介業を営む者を住宅宿泊仲介業者といいます(2条10項)。
住宅宿泊仲介業者には、住宅宿泊仲介業に関する料金の公示(56条)、宿泊者に対する契約締結前の書面の交付(59条)等の義務が課されます。
旅行業法の登録を受けず、また、観光庁長官の登録を受けず住宅宿泊仲介業を営んだ者は、100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(旅行業法29条1号)。
以上のように、住宅宿泊仲介業(民泊仲介サイト)に対する規制ができましたので、今後は、「ヤミ民泊」をあっせんする住宅宿泊仲介業者は法施行後には排除されることになるわけです。

以上のように、民泊に関するルール、関係する官公署は多岐に渡るため、民泊に関する相談や苦情を受け付ける専用窓口を観光庁が新設する見通しです。具体的には、空き家などに旅行者を有料で泊める「民泊」について、観光庁は騒音などの苦情や開設手続きなどの相談を一括して受け付ける専用窓口を設ける方針を固めています。民泊の基本的なルールを定めた新法の施行時期をめどに開設する予定です。民泊を巡る相談・トラブルについては、今後、窓口を一元化してトラブル防止や民泊の適正化につなげることになっています。

「民泊新法」に基づく民泊ビジネスは、届出だけで実施ができるため、参入障壁がとても低くなっています。新法民泊は、住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に利用させるもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものです。「一定の要件」を超えて実施されるものは、「新法民泊」の対象外であり、旅館業法に基づく営業許可が必要となりますので、要注意です。すなわち、年間180日を超えて民泊を実施する場合には、現在と同様に旅館業許可を得るか特区民泊の届出をする必要があります。

なお、通常国会の会期が延長にならなかったため、審議時間切れで2017年通常国会では旅館業法一部改正案は成立せず、無許可営業者等(無許可民泊営業者)に対する罰金の上限額を3万円から100万円とする改正案が先送りになりました。今回の民泊新法成立と旅館業法一部改正による罰則強化をセットで民泊取締を強化する予定でした。次期臨時国会での旅館業法一部改正の経過に注目です。


REITOメルマガ第128号より