不動産トレンド

平昌冬季オリンピックも終了し、日本勢は過去最高のメダルを獲得し、大変盛り上がり、また平和とスポーツの素晴らしさを実感することができました。

さて、そのような最中で、国内不動産市場では、シェアハウス投資を巡るトラブルが問題になっております。具体的には、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」などの運営会社スマートデイズが手がけるシェアハウス投資で、オーナーとなった会社員らに約束通りの賃料が払われなくなり、破産者が続出しかねない事態が発生しています。賃料収入を頼りに、建設費のために借りたお金を返す計画だったはずが一転して、借金地獄に苦しむオーナーから弁護士に相談が相次いでおります。こうした事態を受けて、日本弁護士連合会は2月19日付で、「サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書」を国土交通大臣と金融担当大臣に提出しました。
今回は、こうしたシェアハウス投資・サブリースに関するトラブルの内容と諸課題についてです。


今回のトラブルの経緯は、スマートデイズが2015年ごろから、「高利回り」を掲げ、主に会社員の顧客を獲得・拡大して、一括借り上げをする「サブリース」形式で、家賃保証をすることで決まった額の賃料を長期間にわたって払い込むとうたい、営業活動に熱を入れてきたことが背景にあります。このビジネスモデルでは、例えば銀行から1億円借金をして、毎月の返済費が50万円だったとしても、毎月55万円の賃料収入が得られれば、毎月5万円の利益になるわけで、この返済費を上回る「家賃保証」が長く続くことが、シェアハウス投資の魅力だとされていました。
トイレや浴室が共用のシェアハウスでは、1人あたり居住スペースは7平方メートルほどと広くありませんが、初期費用が低く抑えられ、地方から上京してくる女性が多く入居すると見込んで、入居した女性を、人材派遣会社に紹介するビジネスにも期待をかけていました。しかし、入居率は伸び悩み、人材紹介ビジネスも期待通りにいかなかったもようで、2017年秋から一方的にオーナーに支払う賃料を減額し、2018年1月には支払いがゼロになってしまったことが問題の発端です。約700人いるとされるオーナーの大多数が、スルガ銀行から多額の融資を受け、その借金でシェアハウスなどを建てて投資を始めたとされています。賃料収入がなければ、借金返済が難しくなり、自己破産しかねない状況が相次いでいるというのです。

例えば、スルガ銀行から1億円以上の融資(金利3.5%)を受け、業者に注文して東京23区内にシェアハウスを建てたケースでは、毎月約70万円の賃料収入が、建物完成2か月後から30年間にわたり保証されるという契約内容でした。このケースでは、トラブルに巻き込まれた男性が融資契約を結ぶ際、スルガ銀行の担当者から「このスキームに自信を持っています。」という説明を受けていたそうで、スルガ銀行が今回のスキームにお墨付きを与え
ていることに安心感を抱いたと言います。結局、「賃料保証」という約束は数か月で破られ、巨額の負債だけが残ったことになり、2018年1月に、契約を合意解除し、スマートデイズに対して損害賠償請求など一切の請求を行わないことを約束させる「合意解除契約書」が送られてきたそうです。男性は合意解除に応じるつもりはないそうで、詐欺的なスキームに騙されたと嘆いています。

今回のトラブルにおいては、「投資家が損をすることが明らかなスキームで、建物や土地の価格もおかしい」、「建築単価も土地も3割ほど割高な価格設定になっている」、「建築会社からスマートデイズへのキックバックが組み込まれているのは明らかだ」等の専門家からの指摘があがっています。

スマートデイズ側は、1月31日に、自社HPにおいて「この度、当社が運営するシェアハウス等のサブリース事業において、オーナー様に対するサブリース賃料の支払いが困難になる状況に陥りました」としてお詫びの意を表明し、2月16日には弁護士と公認会計士による外部調査委員会を設置したと発表しましたが、問題解決には時間がかかりそうです。

このほか、ゴールデンゲインという会社のシェアハウス投資でも被害相談が寄せられています。ある会社員男性のトラブルのケースでは、約9千万円をスルガ銀行に借りて投資を始めた後に、ゴールデンゲインより「当初想定が甘く、約束どおりの賃料が払えなくなった」などと通告があり、賃料収入は大きく減って毎月約15万円を払わなくてはいけない「逆ざや」状況に陥ったと言います。こうした不動産投資トラブルに陥っている消費者が増えているようで、今後、被害者らは、不法行為に基づく損害賠償請求などの民事訴訟を起こす予定とのことです。

「かぼちゃの馬車」などのシェアハウス投資で約束通りの賃料が支払われず、オーナーとなった会社員らが多額の借金に苦しんでいる問題が増加していることを踏まえて、日本弁護士連合会は2月19日付で、「サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書」を国土交通大臣と金融担当大臣に提出しました。日弁連はこの意見書の中で、「サブリース契約は一括借上により当面の賃料が確保されることから、表面的には、空室・賃料低下のリスク等が見えにくい」などと問題点を挙げ、サブリース契約も借地借家法が適用される賃貸借契約であり、賃料減額請求が主張される可能性があるなど、土地所有者などが貸家ビジネスの経営リスクを負担させられるおそれがあるとしています。その上で、サブリース業者と同一または関連会社である建設業者が、「空室や家賃滞納にかかわらず家賃保証します」などと勧誘する手法について問題視しています。
実際に、金融機関から多額の融資を受けて建設しても、30年または35年などの長期間の家賃保証があるおかげで実質的な負担がなく、「バラ色の計画」が実現するものと誤認させて契約に至っている実態があると指摘しています。日弁連は国交省に対し、「家賃の変動リスクや期間の限定、中途解約のリスクなどに照らして将来の家賃収入が保証されているものではないこと」などを、建設工事請負契約を結ぶ前に説明することを法令上の義務とするべきだと主張しています。

また、日弁連は、金融庁の規制や銀行など金融機関の対応についても問題視しています。金融庁が金融機関に対し、「アパート等のローン融資に際して、将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇や空室・賃料低下リスク等を説明する義務があることを明示すべきである」と指摘しています。

サブリースビジネスは、不動産業者が建物などを一括して借り上げ、他の人に貸すこと(転貸)で収益をあげる事業のことですが、この数年、地方都市でもこのスキームが広がりました。多くの会社員、あるいはご高齢の方々が、銀行から多額の融資を受けてアパートやシェアハウスを建設し、「家賃収入の長期保証」を信じて投資を行うことが拡大してきました。しかし、実際は、入居率は振るわず、約束は一方的に破られ、家賃収入がゼロになることがあるわけです。自己破産が続出しかねない事態に陥っている方が多くいらっしゃることを踏まえて、今後トラブルが増えないような慎重な対応が、不動産事者、消費者双方に求められると思います。


REITOメルマガ第136号より