不動産トレンド

2017年12月22日に、2018年度の政府予算案が閣議決定されました。今回は、その予算案における不動産(土地・住宅関連)施策の主な事業・予算についてご報告致します。


平成30年度の国土交通省土地・建設産業局関係予算においては、国民生活・経済の基礎的な制度インフラである地籍整備、地価公示等の着実な推進を図ること、空き家・空き地等の流通・活用促進、民泊管理業の健全な発展に係る環境整備、不動産証券化手法を活用した地域振興のためのネットワークの形成促進、環境性、快適性等に優れた不動産への投資促進に向けた環境整備のほか、不動産業の国際化の推進に重点的に取り組むことが柱とされております。

例えば、不動産取引価格情報の提供(226百万円)です。不動産市場の透明性向上・取引の活性化を図るため、不動産の取引当事者へのアンケート調査を実施し、その調査結果をもとに、不動産の実際の取引価格に関する情報について、四半期毎に、国土交通省ホームページにおいて提供を行うこととしています。

また、不動産価格の動向指標の提供(50百万円)について、不動産価格の動向を把握し、金融・マクロ経済政策へ活用するとともに、不動産市場の透明性向上・取引の活性化を図るため、不動産価格指数(住宅・商業用不動産)の提供を行うとしています。IMF より発表が予定されている不動産価格指数の国際指針を踏まえ、成約賃料や空室率等、不動産市場の動向の多角的な分析に資する指標の開発に向けた検討を行うとしています。

不動産市場の環境整備については、不動産ストックの利活用・流通活性化の推進が政策課題になっており、空き家・空き地等の流通・活用の促進に95百万円の予算が決まっています。具体的には、本格的な人口減少社会を迎え、有効活用されずに放置される空き家・空き地は増加傾向にあり、その対策は喫緊の政策課題となっているわけですが、このような遊休不動産について、空き家・空き地バンク等を活用したマッチング支援等、地域連携等による新たな需要の創出や流通促進等を支援することが決まりました。また、空き地等を地域資源として活用しているような先進的な取組への支援やそのノウハウの横展開を行うとともに、所有者不明土地の公共的目的のための利用の円滑化を促すこととされています。これらにより、空き家・空き地の有効活用を促進し、社会全体の生産性向上等を推進することを目標として示されました。その具体的な事業ですが、地方公共団体等と連携して空き家等の流通促進を図る不動産業団体等によるモデル的な取組を支援し、地域のNPO法人等による空き地の活用(所有者不明土地問題に係る事案を含む)に向けた先進的な取組への支援、ノウハウの収集・分析、横展開等の実施を行い、所有者不明土地の公共的利用を可能とする新たな仕組みの実施に向けた周知等も行うことが公表されています。

民泊管理業の健全な発展に係る環境整備(15百万円)も喫緊の課題です。「観光立国推進基本計画」に掲げられた2020 年訪日外国人旅行者数4000 万人等の目標達成に向け、我が国の不動産ストックを宿泊施設などに利活用することが重要であり、今般制度化された民泊サービスについて健全な普及を図るため、住宅宿泊管理業者(民泊管理業者)の生産性向上・人材育成を図っていくことが重要になっています。このため、民泊管理業者の確保に向けた環境整備として、多様な事業形態に応じた標準契約書や実務マニュアルの普及・啓発を図り、安全・安心かつ快適な民泊サービスの提供を促進することとされています。具体的には、民泊管理の多様な事業形態に応じた標準契約書や実務マニュアルの普及・啓発を図るための各地域における説明・講習会の実施等が予定されています。

不動産証券化手法を活用した地域振興のためのネットワークの形成促進については、新規に58 百万円が措置されています。地域の不動産業者によるクラウドファンディング等を活用した空き家・空き店舗等の遊休不動産の再生を促進するため、小規模不動産特定共同事業に係る特例の創設等を内容とする不動産特定共同事業法の一部を改正する法律が成立し、平成29 年12 月1 日より施行されました。そこで、同制度を通じたより効的・効果的な地方創生を図るため、地域の不動産業者等と不動産オーナーやまちづくり会社、公的不動産の活用に取り組む地方公共団体、地域金融機関、IT 企業、地域活性化に取り組む者等との連携を強化し、地域の事業化ニーズを掘り起こして民間資金の円滑な供給を図り、新たな地域民間プロジェクトの立ち上げを加速する場の形成等を促進することされています。具体的には、各分野の専門家によるセミナーの開催等、地域の関係者の連携強化を図る場の形成促進、各地域の取組みやノウハウの共有、事例集の作成等を通じて、全国へ情報発信・横展開するための仕組みの構築、小規模不動産特定共同事業に係る投資家保護のためのルールの策定や優良事業者育成のための方策等を検討する場の形成促進が行われることになっています。

環境性、快適性等に優れた不動産への投資促進に向けた環境整備にも新規で15百万円が措置されています。近年、環境性、快適性及び健康性の向上や、働き方改革等への社会的要請が高まっており、不動産分野でもこれらの要請に対応するための環境整備を行うことが、国内外の投資家から求められていることから、我が国の不動産投資市場の成長を促進し、不動産の環境性等の品質を適切に不動産価格へ反映する仕組みを構築するとしています。

不動産企業のための海外ビジネス環境の整備には27百万円が措置されています。『未来投資戦略2017』や『インフラシステム輸出戦略』に基づき、「質の高いインフラ投資」を進め、「2020 年に30 兆円のインフラシステム受注を目指す」との政府目標を実現するためには、相手国政府との関係構築等により、建設・不動産企業の海外進出に向けた基盤強化を図ることが必要であることから、二国間建設会議等の開催による二国間の枠組の構築・関係強化や、新興国における我が国企業のビジネス環境改善につながる関連制度の整備・普及支援により、政府間でしかなし得ないビジネス環境の整備を推進するとしています。

住宅政策関連では、1)既存住宅の質の向上と流通促進による住宅市場の活性化、2)少子高齢化・人口減少に対応した住まい・まちづくり、3)災害等に強い安全な暮らしの実現、4)良質な住宅・建築物の整備等の分野を重点的に取り組むこととしています。

まず、既存住宅の質の向上と流通促進による住宅市場の活性化についてですが、既存住宅流通・リフォーム市場の活性化に、長期優良住宅化リフォーム推進事業 国費:42 億円、住宅瑕疵等に係る情報インフラ整備事業 国費:1.2 億円、住宅ストック維持・向上促進事業 国費:9.75 億円が措置されています。住宅の維持管理やリフォームの適切な実施により、高齢者等が所有する住宅の価値が低下せず、良質で魅力的な既存住宅として市場で評価され、資産として流通する、新たな住宅循環システムの構築を支援することとされているほか、既存住宅の流通・リフォーム市場の活性化により、若年・子育て世帯等が少ない負担で住宅を取得できる環境を整備すること、急増する空き家について、除却・活用や相談体制の整備等に向けた取組を促進するとともに、高齢化等が見込まれる住宅団地における持続可能な居住環境の形成を支援することが決められています。

具体的には、既存住宅ストックの長寿命化等に資するリフォームの取組を支援するとともに、住宅瑕疵等に係る情報インフラの整備により、適切な維持管理やインスペクション等を促進し、既存住宅ストックの品質向上等を図る取組に対する支援を行い、長寿命化等の取組を行った住宅が市場において適切に評価される流通・金融等も含めた一体的な仕組みの開発等に対して支援を行うことにより、良質な住宅ストックの形成と既存住宅流通・リフォーム市場の活性化を図ることに重点的に取り組むとされています。

空き家対策の強力な推進については、空き家対策総合支援事業 国費:27 億円、空き家対策の担い手強化・連携モデル事業 国費:3 億円、社会資本整備総合交付金等の内数(空き家再生等推進事業)により、少子高齢化の進展等により急増する空き家について、壊すべきものは除却し、利用可能なものは活用するとともに、事前に発生を抑制するための取組も併せて進めていくことにしています。「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、市町村において「空家等対策計画」の策定が進んでいることを踏まえ、同計画に基づいて実施される除却や利活用等を支援し、総合的な空き家対策の一層の推進を図るほか、空き家に関する多様な相談に対応できる人材の育成や、法務・不動産・建築等の専門家等との連携体制によるプラットフォームの構築を図るとともに、空き家の発生抑制など多様な課題の解決に向けたモデル的な取組に対する支援を行うとしています。

また、住宅団地における持続可能な居住環境の形成も喫緊の政策課題で、良好な居住環境を有するものの急激な高齢化や空き家の発生等が見込まれる住宅団地について、将来にわたり持続可能なまちを形成するため、住宅市街地総合整備事業に、地域のまちづくり活動、既存ストックを活用した高齢者・子育て世帯の生活支援施設等の整備、若年世帯の住替えを促進するリフォーム等を総合的に支援する住宅団地ストック活用型を新たに創設することとしています。

少子高齢化・人口減少に対応した住まい・まちづくりについては、若者や子育て世帯が希望する住宅を選択・確保できる環境や地域ぐるみで子どもを育む環境を整備することにより、若年・子育て世帯が安心して暮らすことができる住生活を実現すること、改正住宅セーフティネット法に基づき、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅の供給を促進し、要配慮者の居住の安定を確保すること、サービス付き高齢者向け住宅等の整備促進などにより、高齢者が自立して暮らすことができる住生活を実現することを目標としています。

このうち、若年・子育て世帯が安心して暮らすことができる住生活の実現については、公的賃貸住宅団地の建替え等を契機に福祉施設等を誘導して地域居住機能を再生する取組への支援とともに、既存の公的賃貸住宅の改修と併せて、子育て支援や高齢者福祉等に係る生活支援施設の導入を図る取組に対する支援を行うとし、また、地方公共団体等の定める計画に位置付けられた住宅団地等について、子育て支援施設等の整備に対する支援を行うこと、さらに、三世代同居など複数世帯の同居に対応した良質な木造住宅の整備やリフォーム、若者が既存住宅を取得して行う長寿命化等に資するリフォームに対する支援を行うほか、加えて、子育て支援に積極的な地方公共団体と住宅金融支援機構が連携し、近居等に伴う住宅取得に対して、地方公共団体による財政的支援と併せて、住宅金融支援機構のフラット35 の金利引下げを行うことが決められました。

住宅セーフティネット機能の強化については、子育て世帯や高齢者世帯などの住宅確保要配慮者の居住の安定を確保するため、改正住宅セーフティネット法に基づく住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅について、改修や入居者負担の軽減への支援を行うとともに、居住支援協議会等による居住支援活動等に対する支援を行うこと、民間のノウハウを活用し効率的に事業を行うため、公的賃貸住宅団地の建替え等においてPPP/PFI の活用を推進するとともに、小規模な地方公共団体による取組に対する支援を行うとしています。

また、高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現のために、自立した生活から医療や介護のサポートが必要となる生活まで、地域における高齢者の多様な居住ニーズに適切に対応できるよう、サービス付き高齢者向け住宅等の整備に対する支援を行い、その際、既存ストックの活用も促進し、急速な高齢化への対応が喫緊の課題である大都市部において、高齢者、子育て世帯等が安心して住み続けられる環境の整備を図るため、既存のUR団地を活用して、医療・福祉施設の誘致による地域の医療福祉拠点化、既存ストックのバリアフリー改修等、高齢者世帯向け住宅等の供給に対する支援を行うとしています。

災害等に強い安全な暮らしの実現も重要な政策課題です。耐震性を有しない住宅ストックを2025 年までにおおむね解消する目標を達成するため、住宅・建築物の耐震化を地方公共団体と連携してより一層推進するとともに、大規模な火災の発生の恐れがある密集市街地等の改善のための取組の強化を図るとしています。また、南海トラフ巨大地震、首都直下地震といった大災害の発生のおそれが指摘されている中で、国土強靱化の取組を進めるため、帰宅困難者対策、防災拠点となる建築物の地震対策、超高層建築物の長周期地震動対策等を推進するとしています。さらに、東日本大震災からの復興や熊本地震等からの復旧・復興に引き続き取り組むほか、住宅・建築物におけるアスベスト含有調査・除去等を引き続き推進することを重点化しています。

住宅・建築物の耐震改修・建替え等安全性向上への支援については、大規模地震の際に想定される人的・経済的被害を軽減し、事前防災及び減災に資する強靱な国づくりを推進するため、住宅の耐震化に向けて積極的な取組を行っている地方公共団体を対象とした住宅耐震化を総合的に支援する新たなメニューを創設するとともに、耐震化の必要性に係る普及・啓発を行うことにより、住宅の耐震化を強力に推進するとしています。また、耐震改修促進法に基づく耐震診断義務付け対象建築物の耐震改修等に係る重点的・緊急的な支援措置、防災拠点となる建築物の地震対策や超高層建築物等における長周期地震動対策等を引き続き推進することにしています。

密集市街地等における防災性の向上については、地震時等に大規模な火災の発生の恐れがある密集市街地等の改善整備を進め、その安全性の確保を図るため、建替支援に係る対象に隣地との敷地の集約化による建替えを追加するとともに、老朽木造住宅の防火改修について消防活動が困難な区域を支援対象に追加します。また、地方公共団体や民間事業者等が連携し、防災街区の整備に関する事業など防災対策の推進と併せ、多様な世帯の居住促進を図るため、子育て支援施設やサービス付き高齢者向け住宅、福祉施設等の生活支援機能等の整備を進めるなど、密集市街地における総合的な環境整備を行う場合について、重点的に支援を実施することなりました。

災害に強く持続可能なまちづくりへの支援については、南海トラフ巨大地震、首都直下地震等の大規模災害に備え、大量に発生する帰宅困難者や負傷者への対応能力を都市機能として確保するため、これらの者を受け入れるためのスペース、防災備蓄倉庫、非常用発電機等の整備に要する費用について、国と地方公共団体が重点的かつ緊急的に支援を行い、整備の促進を図るとしています。また、防災性能や省エネルギー性能の向上といった緊急的な政策課題に対応した先導的な住宅・建築物の整備を促進するため、民間事業者等が行う住宅・建築物の整備に関する事業に対し、国が直接補助を行い、上記政策課題への対応に資する事業の緊急的な促進を図るとしました。

東日本大震災からの復興加速も引き続き重要な課題です。特に、災害公営住宅の供給促進については、被災3県における住まいの確保の見通しを示した「住まいの復興工程表」の実現に向け、災害公営住宅の整備及び家賃の減額等に対して支援するとしています。そして、自力再建の支援については、東日本大震災により被害を受けた住宅等について、住宅金融支援機構の災害復興住宅融資の金利引下げ措置等により、引き続き住宅の自力再建等を支援するほか、被災者の生活再建を一層推進するため、建築確認・検査の手数料を減免する民間の指定確認検査機関に対する支援を行うとしています。

また、熊本地震等からの復旧・復興においても、災害公営住宅の供給促進と住環境の整備については、被災者の早期の居住の安定確保を図るため、地方公共団体による災害公営住宅の供給等への支援を行うこととしています。また、自力再建の支援、熊本地震による被災者の生活を早期に再建するため、建築確認・検査の手数料を減免する民間の指定確認検査機関に対する支援を行うほか、被災マンションの建替え等による再生を推進するとしています。

最後に、良質な住宅・建築物の整備についてです。住宅・建築物の省エネ化等による環境対策、地域の木造住宅の生産体制の強化等への支援を行うことにより、良質な住宅・建築物の整備を促進し、また、新興国政府等との協力関係を強化すること等により、住宅・建築分野の国際展開を一層促進するとしています。


REITOメルマガ第134号より