不動産トレンド

民間有識者らでつくる所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也元総務相)が本年6月26日に、長年相続登記されず、所有者が分からないいわゆる「所有者不明土地」が、全国の20.3%を占めるとする推計結果を公表しました。面積にすると九州より広い約410万ヘクタールに上ると言われています。
研究会は、国土交通省の地籍調査をベースに、人口や高齢者の死亡者数などを踏まえて独自に計算。全国の登記された土地約2億3000万筆のうち、2割で所有者が分からないと推計しており、こうした土地では、利用の停滞や課税漏れが発生していると指摘しています。
所有者不明の土地問題では、法務省が6月初めに都市部で6.6%、地方で26.6%が所有者不明になっている可能性があるとのサンプル調査結果を公表していますが、国のデータを基に全国的に推計するのは初めてのことです。研究会は、問題の解決策を検討し、今秋に向けて政府に提言する予定となっています。

今回は、この所有者不明土地問題をめぐる不動産市場における政策課題、最近の政府や関係機関での議論についてお伝えいたします。


所有者不明土地問題は、農地の集積・集約化や森林の適正な管理なども含め、様々な分野で直面している課題となってきており、多死社会・大量相続時代を迎える日本において、不動産市場における喫緊の課題と言えるかもしれません。そもそも土地の所有者情報は不動産登記簿に記載されるわけですが、登記は任意で、放置されているケースもあります。情報が更新されず何世代も続きますと、相続人は「ねずみ算」式に増加し、国や自治体が災害復興事業や道路整備などで必要な土地を買収する際に、全員を探し出して同意を得なければならず、把握に時間と費用がかかることになります。
所有者不明の土地が増える背景・要因として、人口減少や少子高齢化による土地需要や資産価値の低下、特に地方都市を中心にこうした課題が考えられます。さらに、土地保有や管理・相続に対する国民の関心が希薄化していることも要因としてあるかと思われます。
例えば、昭和初期には50数人の共有地だったが、相続により現在約700人になっている土地があるほか、東日本大震災でも、所有者不明土地問題により、高台移転事業の区域で土地取得が難航したケースもあったと言われます。

空き家について現状を見ると、2013 年現在、全国で約820万戸の空き家が存在しています。今後、世帯数の減少等により、20年後の2033 年には2,150万戸にまで急増するとも見込まれています。特に利活用が見込まれない空き家の敷地は、除却後には空き地化する可能性が高く、空き地の管理が放棄された場合には、所有者が不明化するおそれがあります。
特に地方部など土地需要が低下している地域では、不在地主化や高齢等も影響して、所有者による適切な管理がされない土地の増加などが進む中、不動産としての土地の資産価値低下、さらには土地を所有することへの負担感さえ見られるように思われます。

所有者不明土地が社会に与える影響として考えられることは、公共事業の用地取得のみならず、農地の集積・集約化、森林の適正な管理上も課題となりますし、国土の適切な管理、防犯・災強靭化等の観点からも大きな課題です。
具体的には、公共事業における用地取得で、墓地の用地取得に際し、登記簿に明治時代の所有者しか記載されていなかったことや、共有者多数により所在探索や交渉が長期化したこと等が現場で起こっているようです。その他、土地所有者が海外在住で取引の交渉が進まない土地や不在者財産管理制度の活用が必要な土地等も増えてきているようです。

所有者不明土地問題研究会が整理した問題点としては、(1)不動産登記簿の情報が必ずしも最新ではないこと、(2)土地所有者の探索に時間・費用がかっていること、(3)相続が発生している場合などでは、探索しても真の土地所有者にたどりつけないことがあること、(4)市町村を中心に必ずしも農地法・森林法・土地収用法などの既存制度が活用されていないこと、(5)公共セクターのみならず民間事業者や一般市民も不明土地の扱いに苦慮しており、課税漏れ、治安悪化、国土の荒廃、廃墟、土地利用・取引の停滞等、問題が多岐にわたること、以上の5つを整理しています。

そして、今後議論を深める4つの課題として、まず所有者の探索の円滑化を挙げています。具体的には、イ)各種台帳間の情報共有・連携やマイナンバーの活用、ロ)地籍調査の活用、ハ)海外居住者の情報把握が指摘されています。次に、所有者不明土地の管理・利活用ということで、イ)所有者不明土地の利用を可能とする制度の検討、ロ)所有権取得に係る既存制度の改善、ハ)外部不経済防止のための一時的な管理、ニ)関連する環境整備(ポータルサイトの開設などによる公告手続の簡略化などの検討)が提言されており、関係省庁でも検討が始まりつつあるようです。
そして、第三に、所有者不明土地の増加防止策として、イ)相続登記の促進や長期間相続登記が未了の土地解消、ロ)登記の義務化など、不動産登記制度のあり方の検討、ハ)地理空間情報を活用した土地情報基盤の整備を指摘しています。
さらに、第四として、土地所有のあり方の見直しです。イ)所有権の「消極的濫用」に対応した所有者の責務の検討、ロ)土地所有権の放棄、寄付、その帰属・受け皿に関する制度の検討を挙げています。

こうした民間有識者の研究と同時並行しながら、所有者不明土地問題に関する議員懇談会、指定都市市長会の検討等も進んでおり、今後、具体的な制度改正や運用の見直しが行われる機運が高まっています。
具体的には、政府は6月9日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017」と「未来投資戦略(成長戦略)2017」を閣議決定したわけですが、骨太の方針には、所有者不明の土地や空き家・空き地を有効活用するため対策を進めることが書き込まれました。

こうした政府の大きな方針の提示と同時並行で、内閣府の規制改革推進会議(投資等ワーキンググループ)では、不動産登記制度、不動産登記情報のあり方等の議論が活発化してきています。
具体的には、不動産登記情報と実態の乖離の解消に向けて、不動産登記とマイナンバーの連携、相続登記の促進(清算型遺贈における登記手続簡略化、被相続人の住所証明書類の保存期間延長)、登記手数料の低廉化・無料化、登記手続の簡素化、所有者情報など一定のデータの無料公開を含めたオープンデータの推進(登記簿、固定資産台帳、農地台帳、林地台帳等)、ブロックチェーンなどの技術の活用等について、検討が行われています。

いずれにしましても、長年続いてきた制度でありますし、個々の国民の資産管理、企業の経済活動にも大きく影響する根本的な仕組みでありますので、中長期的な検討を要する事項も多くありそうです。
所有者不明土地問題をめぐる課題、政府部内での制度の見直しの議論と今後の具体的な改正内容は、宅建業者の皆様方の関心事項が多くあるかと思いますので、今後も、皆様のお役に立てるような情報提供を図っていきたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願い致します。


REITOメルマガ第129号より