不動産トレンド

2020東京オリンピックの開催に向けて様々な取り組みが始まっています。インフラ面でいえば、羽田空港と成田空港を結ぶ新線計画や三環状道路の整備計画、虎ノ門地区と新豊洲地区を結ぶ環状2号線整備などが計画されています。すべてが2020年に間に合うものではありませんが、オリンピック後を見据えた国土整備が念頭に置かれています。


当然ながら不動産業界への影響も大きく、すでに大手デベロッパーなどが湾岸エリアで進めている住宅供給について、開催決定直後から問い合わせやモデルルーム来場者が大幅に増加しているそうです。特に中央区・晴海に建設される選手村近くに今後確認されるだけでも20近くのマンション再開発プロジェクトが立ち上がる予定です。当機構が月一回ペースで開催している不動産再生研究会でも取り上げましたが(議事概要等については近く当機構ホームページに掲載します。)、最大のプロジェクトは、2019年竣工が予定される勝どき東地区第一種市街地再開発事業で、これだけでも約3千戸の住宅供給、それ以外のプロジェクトと合わせると15,000戸以上の住宅供給が計画されています。選手村自体も約1万戸の集合住宅のイメージであり、民間事業者が建設し大会組織委員会が一括賃借し、オリンピック終了後、民間事業者が改装の上、分譲又は賃貸用の住宅として供給すると言われています。一方、最寄り駅である都営大江戸線勝どき駅は、平成13年開業当初の乗車数が28,000人であったところ、平成24年時の乗降者数は84,000人になり、朝のラッシュ時には激しい混雑に見舞われ、現在もホームや出入り口の増設工事を行い、新駅や新線が必要ではないかとの指摘もあります。

加えて心配な点は、建築費の高騰懸念です。被災地を中心に多数の入札不調が報道され、公共工事の労務単価も引き上げが続いており、政府も東日本大震災復興やオリンピック開催に向けた人手不足に対応するため、建設現場で働きながら技術や知識を習得する外国人技能実習生の在留期間延長や帰国後の再入国を時限的に認める緊急措置を決定しました。建設業界も、これまで工事量確保を優先してきた部分もあったが、技能労働者の適切な賃金水準を確保できないような価格では受注しないという姿勢を強めています。こうなると発注者側のデベロッパーとしても、最終製品の価格転嫁を真剣に検討せざるを得ないでしょう。地価の上昇、脱デフレが期待されている現在、おかしな話ではありませんが、オリンピック終了後のマーケット状況、インフラの整備の進捗等を見据えた慎重な経営判断が求められるでしょう。

建築費の高騰は、開発や建替えに比べて工事依存度の低い既存の不動産改修を促す可能性があります。例えばオリンピック期間中は観客滞在施設の大量供給が必要となりますが、地震国として有名な我が国においてはホテルや賃貸マンションなどをオリンピック開催までに耐震改修して安心感を高めておく必要があります(なお、今年4月1日に施行された国家戦略特別区域法13条で旅館業法の特例として、例えばアパートやマンションの空き部屋を旅館業法登録の必要なくウィークリーマンションのような宿泊施設に転用できるような規制緩和措置が打ち出されています。)。昨年3月の東京都の発表によると、都内マンション約13万棟のうち旧耐震基準のものが約2.5万棟、特に賃貸マンションの耐震診断実施率が6.8%、耐震改修実施率は3.4%とマンション耐震化の取り組みは進んでおらず、その耐震化が喫緊の課題であるとしています。不動産業界においても、耐震建て替え・改修、買取再販事業や中古物件の仲介・リフォームといった大きなビジネスチャンスが生まれるのではないでしょうか。


REITOメルマガ第90号より